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2012.11.02 [Fri] + Art/Design +
バロック美術とは~リヒテンシュタイン展




いってきましたよ、リヒテンシュタイン展@国立新美術館。
キャッチコピーは「ようこそ、わが宮殿へ」。

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『優れた美術品収集こそが一族の栄誉』を家訓とし、500年以上にわたってヨーロッパ美術の名品を収集つづけ、いまや英国王室に次ぐ世界最大級の個人コレクションだというリヒテンシュタイン家。全盛時代がバロック期なのでバロックの名品が多いと聞き、どんなものか楽しみにしていたのだ。



■ バロック美術とは


バロック美術:
16世紀末から18世紀にかけ欧州全域に見られた様式。ルネサンス美術が左右対称や均衡を重視するのに対して、流動的、対角線構図、曲線的、コントラストのはっきりした構図などが特徴で、それらは力強い生命感やダイナミックな躍動感、劇的な感情表現や臨場感を生みだしている。



図録にあるバロック美術の解説がわかりやすくて良かったな。ミケランジェロとベルニーニによる《ダヴィデ像》の比較。ルネサンスとしてミケランジェロを、バロックとしてベルニーニを。


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ミケランジェロ作《ダヴィデ像》

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ベルニーニ作《ダヴィデ像》


おなじダヴィデであって、静的で直線的なミケランジェロの《ダヴィデ像》と、身体をひねることでうまれる躍動感、斜めのラインや曲線、"瞬間"感や表情のあるベルニーニの《ダヴィデ像》。全然ちがうよね。バロック的表現とは何なのかつかみやすい。


ちなみに、わたしの中では「バロックとは襞である」ってイメージです。

バロック絵画における流動感と複雑さは襞によって生み出されるもの。相反する要素は襞のように折り重なり、交わりながら調和していく。たとえば絵画における光と影であっても、直線では分離することなく、互いの領域は交じりあい、微妙な曲線とグラデーションとなって描かれたり。

あるいは人の感覚に直接的に訴えかけてくる豪華な装飾や錯視効果を襞のようだと直感的に捉えてもいい。描かれる劇的感情表現とはこころの襞のあり様だし、ぶつかり合うふたつの力によって生じるねじれや歪みは襞ともなれる。つまり、そういうことではないかと。



■ リヒテンシュタイン展 ~バロック・サロン


リヒテンシュタイン家の一大コレクションはリヒテンシュタイン候国にはなく、ウィーン郊外の「夏の離宮」にて管理・一般公開されているんだけれど、ユニークなのはその展示法。そもそも一般公開がはじまった1810年頃には、いまの美術館でよく見るような「作者・年代別カテゴリやテーマに沿った展示で見せる」という概念がなく、美術品もあくまで室内装飾のひとつとして並べられていたそうな。


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バロック・サロン内部 by インターネットミュージアム
なんと天井画まで!


今回展覧会の目玉である「バロック・サロン」では、夏の離宮とおなじく絵画、彫刻、工芸品、家具やタピストリーがバロック様式の室内装飾と調和するように区別なく一堂に並べられ、空間全体がひとつの芸術として提示されている。これが素晴らしかった。なんというか、絵の奥行き感まで上手に引き出されている感じ。そのときはなんでここまで空間とマッチしているのかわからなかったけれど…。



■ バロック美術の巨匠たち


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ペーテル・パウル・ルーベンス 《マルスとレア・シルヴィア》 1616/17

軍神マルスは、かまどの女神ウェスタの神殿に使える巫女であったレア・シルヴィアに恋焦がれ、彼女が眠っているすきに忍び寄り、想いを遂げました。本作では、マルスは甲冑を身につけつつ、かぶとは傍らのプットーに預けて、レア・シルヴィアに駆け寄っています。驚いたレア・シルヴィアは身をひいていますが、マルスを彼女の方へと導く愛の神キューピッドの存在は、この恋の成就を暗示します。


襞、ひだ、襞。マルスの心の高ぶりとレア・シルヴィアの驚き。おおげさなほどの襞がその一瞬のシーンをドラマチックに仕上げる。バロックの巨匠と呼ばれて久しいルーベンスの一枚。

こうして見ていて気づくのは、襞の視覚効果。同じ遠近感であっても、まるで手前に飛び出てくるような印象さえ与える不思議。


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ペーテル・パウル・ルーベンス 《勝利と美徳》―「デキウス・ムス」連作より 1618


古代ローマの物語を空前のスケールで描いた8点の連作「デキウス・ムス」からは、あえて『勝利と美徳』推しで。左側、右手に小麦の穂を持ち左手に月桂樹の冠をもっている勝利の女神ヴィクトリアとは…そう、ニケのことです(ヴィクトリアはローマ神話での呼び名→ 過去記事:勝利の女神ニケ)。

ルーベンスの女神ニケ!オリンピックはもう終わってしまったけれど、小麦の穂が放つ黄金の光は選手たちが一心に目指したメダルの色そのもので、なんだかジーンときてしまった。。描かれたニケをしっかりとみるのはこれがはじめてだったから。



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レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン《キューピッドとしゃぼん玉》1634


愛らしいキューピットとシャボン玉の組み合わせ。
レンブラントといえばその劇的な明暗のコントラスト(あるいはハイライト)で有名で、その光は"スポットライト的"と例えられる。たしかに光のそれはスポットライト的ではあるものの、スポットライトとの決定的な違いは、影が明確な輪郭線をもたないところだと思う。たとえわずかでもそこには影のグラデーションがある。光との調和。境界線で重なりあう襞。その影の曖昧表現がいっそう光を心情的に引き立てているのかなぁ…なんて。


    *    *    *


この辺でなぜバロック・サロンの空間があんなにも心地よかったのか気付く。ルーベンスの襞にしろ、レンブラントの光のコントラストにしろ、その劇的効果は奥行きだけではなく描いたものを前に押しだしているのだ。壁にかけられたルーベンスの絵からは襞がドレープが垂れる。そうしたバロック美術たちのもつ独特の立体感ががバロック様式の少々デコラティブな調度品たちと見事にマッチして、まるで空間そのものがひとつの舞台セットになったような、自分たちがその舞台の登場人物としてその壇にあがったような錯覚さえ。

例えばあのバロックサロンにかかっているのが印象派の作品だと想像してみたら、言わんとしていることがすこしは伝わるだろうか。バロック美術のあの臨場感とは目の前に迫ってくるような、せり出てくるようなものなんだなあとひとしきり納得して、自分の中で「バロック美術とは」がなんとなくつかめた気がする。(あくまで個人解釈ですけどね)



■ 18世紀――新古典主義の芽生え


最後の展示室は「18世紀――新古典主義の芽生え」と題された部屋。ここはほんとによくて、、多くのひとがソファーに座って絵を眺めていました。



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フランチェスコ・アイエツ《復讐の誓い》 1851


ヴェネツィアの水路を背景に、何やら不穏な雰囲気を漂わせる2人の女性。ひとりは黒い仮面をつけ、もうひとりは外した黒い仮面を手にしたまま、注意深く辺りを見回す。そして黒い仮面の女性の手には手紙。美しいその人はその手紙を受け取ろうとしているのか、それとも相手を制しているのか。服装の違いから身分の差は明らかであり、そんなふたりの間にどんな"秘密"が共有されているのか。

高さが2メートル以上もあるこの作品では、画中の彼女たちもほぼ等身大で描かれているそうで。その精巧な描写とかもしだす圧倒的な存在感はまさに舞台の一場面を観ているかのようでした。


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フランチェスコ・アイエツ 《Accusa segreta》
※今回の展覧会には来ていません


実はアイエツはこんな作品も描いています。「Accusa segreta」ーーー告発の秘密。手紙をにぎるその人の表情は固い。そっとその場を去る人の背を見つめるサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の存在がとても良い。

これらの作品はアイエツの友人でコレクターのアンドレア・マッフェイが書いた物語詩を描いたものなんだって。読んでみたいなあ。ストーリーが気になる!



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フリードリヒ・フォン・アメリング《夢に浸って》 1835
※東京展のみ


これも良かったー!その白くなめらかな肌、繊細なレースの描写。なによりその透き通るような瞳の色!


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レオナルド・ダ・ヴィンチの《ジネヴラ・デ・ベンチの肖像》を彷彿とさせるような瞳の描き方だなあ。それが最初に出てきた感想だった。

実はリヒテンシュタイン侯爵家コレクションの2人の偉大な立役者のうちのひとり、カール・オイゼビウス侯は実際に《ジネヴラ・デ・ベンチの肖像》をコレクションに加えていたとあとで知ってびっくり!ただし第二次世界大戦後に財政難から現在のワシントン・ナショナル・ギャラリーに売却したそうです。このとき手放していなかったら、西半球にはいっさいレオナルド作品がなかったんだなあ…というかあの作品に目をつけるとはさすが!と唸ってしまった(謎の上から目線)。


そしてリヒテンシュタイン展、最後の一枚はおなじくアメリングの作品。


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フリードリヒ・フォン・アメリング《マリー・フランツィスカ・リヒテンシュタイン侯女 2歳の肖像》 1836
※東京展のみ


かわいい…。おもわずため息がもれるほど。その息遣いや、甘い肌のかおりまで伝わってくる気がした。この絵の前にたちどまる人も多かったなー。

今回アメリングという画家をはじめて知ったんだけど、すごく気になってしまった。機会があったら調べてみよっと。




関連リンク
 >> リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝HP
 >> リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝 - インターネットミュージアム

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