オレンジのR+ //
2012.10.01 [Mon] + Days +
映画『最強のふたり』

映画館の席をたつ誰もが口々に「いい映画だったね」「よかったね」と言葉を交わしていた。
同じように、幸せそうな笑顔を浮かべながら。

 > ふつう映画館で起こる笑いって、クスクス笑いやドッとわき起こる笑いでしょう、でも『最強のふたり』はあはは笑いなの。みんなで「あはは」ってわらうの、すごく気持ちよかったよ。いい映画だよ。

 > 今年は映画の当たり年だけど、これを今年一番に挙げる人も多いはず。まだ見てない人に、「見て!」じゃなくて「見に行っといで」って背中ぽん☆したくなるような映画だったよ。



そんな感想がこぼれ落ちた、その日の夜のこと。






intouchables00.jpg

【あらすじ】
パラグライダーの事故で首から下が麻痺してしまった大富豪のフィリップ。彼の新しい介護人募集の面接にやってきたのは、いささか場違いな雰囲気の黒人青年ドリス。スラム街に暮らす彼の目的は、失業手当をもらうための不採用の証明書だった。周囲の憐れみの同情と腫れ物に触るような態度に辟易していたフィリップは、そんなドリスのふてぶてしい態度に興味を抱き、思いつきで採用してしまう。ドリスには介護の経験がないばかりか、趣味や生活習慣にいたるまで互いが歩んできた世界はまるで水と油。いつまで持つかと思われたが、障がい者相手にも遠慮することなく本音で接するドリスは、他の誰よりもフィリップの心を解きほぐし、いつしか2人は固い絆で結ばれていく。


なんといまならYahoo!映画で『最強のふたり』冒頭5分映像が見れちゃうのだ!



■ "Les Intouchables" の意味


この映画の原題『Intouchablesアントゥーシャブル(英題「Untouchable」)』について。
映画のタイトルでは省略されているけれど、ほんとは前に複数形を表す冠詞Lesがつき、"Les Intouchables" なんだって。 "Intouchable"にはいろいろな意味があり、この映画のタイトルにおける解釈も様々なんだけど、その手がかりは原作となった本のあとがきにある。

本書のあとがきでフィリップはこう書いている。「映画タイトルになった『Intouchablesアントゥーシャブル(英語題は「Untouchable」)』という言葉は、フランス語で『触れ合わない』『触れられない』の意味。北アフリカ移民アブデル(映画ドリス役のモデル)もフランスでは常に疎外された存在だし、アブデルに言わせると金はあるが四肢麻痺の自分は『金ピカの檻』に閉じこもり、痛みをもたらさないように周りの人が触れることを恐れている存在。ふたりとも『アントゥーシャブル』なのだ」と。

[フィリップ・ポッツォ・ディ・ボルゴ 『セカンドウインド』より]


ドリスとフィリップ。ふたりだから、"Les Intouchables"――『アントゥーシャブルなひとたち』。
これはそんなふたりの物語。


intouchables01.jpg
↑こちらはフランス版ポスター。


■ Earth,Wind & Fire


お気に入りのシーンがある。フィリップの誕生日パーティーでの一幕。せっかくのヴィヴァルディの『四季』やリムスキー=コルサコフの『熊蜂の飛行』を「職業安定所の曲だ」「トムとジェリーみたい」と一蹴する。……「トムとジェリーみたい」って!!思わず噴いてしまった。笑
爆笑するフィリップもすごくいい顔してる。

そしてこれが俺の音楽だとばかりにドリスが聴かせたのが Earth,Wind & Fire の『Boogie Wonderland』。そうして戸惑う皆を巻き込んで踊り出すのだ。





この、ドリスによるめちゃくちゃなクラシック評からのダンスシーンは、観ていて踊りだしたくなるほど痛快であると同時に、深くこころにグッときた。楽しそうに腕をひろげて回り、力強くステップを踏み鳴らすドリス。その足元をじっと見つけ続けるフィリップ。そこにもうひとつの "Intouchable" があることに嫌でも気付かされてしまうからだ。


intouchables02.jpg


ところで、ドリスが選んだ"Earth,Wind & Fire"―――つまり「大地」、「風」そして「炎」、これこそがフィリップが不慮の事故により "触れられなくなったもの" じゃないかという解釈を読んだときは、なるほどなと感心した。それらは同時にドリスが再びフィリップに取り戻させてくれたものでもある。フィリップを屋敷から外に連れ出し大地を感じさせ、電動車椅子を改造しスピードが出るようにして風を感じさせ、そして「炎」…「火」遊び。マリファナやたばこ、耳マッサージまでいっしょに楽しんでしまうハチャメチャっぷり。フィリップはようやく見失いかけていた生きる喜びを取り戻しはじめていた。

けれど、そんな風に再び世界に触れ合ったとしても、それは以前の自分で触れていたときとはちがう。それはずっとどこか目を逸らしてきた事実であり、もしかしてそのことに真正面から向きあえたのが、あるいは向き合う勇気を持てたのが、あのシーンなのかなと思う。

なぜなら、踊るドリスと彼の足元を見つめるフィリップの表情には、どこか複雑さを帯びながらも、揺るぎないつよさのようなものが感じられたから。あのとき、フィリップは本当にかけがえのない友人と呼べる存在を手に入れたのかもしれない。そんな風に思い返すたびに、胸の奥がじんじんしてくる。



■ 別れと再会


一度はドリスのためを思い、彼を家族の元へ帰すフィリップ。もともと出会うはずのなかったふたつの世界はまた交わることなく回りはじめていく。以前の絶望のなかに押し戻されたフィリップの心は再び荒れ、閉ざされてゆく。そんなもんだと諦めて慣れてしまっていたひとりより、ふたりでいてひとりになる方がずっとつらい。いっそう強まった孤独感や絶望感がスクリーンからひしひしと伝わってきて胸が痛んだ。

そのあまりの様子に耐えかねた秘書たちはドリスを呼び出す。フィリップ邸を訪れたドリスが見たのは、ヒゲモジャ面のフィリップだった。あれもまた、 "Intouchable" の象徴だよなあ。フィリップはけっして他の介護人に、彼の顔に、こころに触れることを許さなかったのだ。

ーーー 感傷的なやりとりなんて一切ない。けれどとてもあたたかくてやさしい。


(まさかここから冒頭のカーチェイスシーンに戻るなんて!お見事のひとこと。)



■ 最強のふたり


もうひとつ印象に残っているシーンがある。
それは海を目前にしてテラス越しにフィリップが海を見て車椅子で佇む場面。

文通のみで関係をはぐくんできた憧れの彼女と会う約束をしたものの、カフェで待つ時間に耐え切れず逃げ出してしまったフィリップと、家族や母親にうまく歩み寄れず落ち込むドリスは「遠くへいきたくないか」のひとことで専用機に乗り込み、パラグライダーが舞う大草原へと向かう。そこで嫌がるドリスを無理やりパラグライダーに乗せてふたりは大空を舞い、大笑いをして元来の明るさを取り戻す、そのあと。

何もない海をただただひとり見つめているフィリップの背中。後ろから躊躇いがちにドリスが近づいてゆく。

わたしはなぜかそのとき、もしかしたらフィリップは泣いているのかもしれないと思った。ドリスが見たその顔には一筋の涙がこぼれているのではないのかと。あるいはまだ泣いていないその瞳も、ドリスを見つけたとたんに決壊するのではないかと。もし泣いていたとしても、フィリップは自分で涙をぬぐうことはできない。いったいドリスはどんな風にその涙をふくのだろう…なんて、そこまで勝手に想像して。

ーーー結局、すべては杞憂だった。ふりかえったフィリップの顔に涙はなかったし、そのあと泣き出すこともなかった。そうしてフィリップとドリス、ふたり並んで海を見ていたんだ。そのシーンがすごく好きなの。

"Intouchable" には「触れられない」という語義から「誰も止めることができない」「最強の」と訳すこともできる。だから "Les Intouchables" = 「最強のふたり」。これをそのまま邦題にする事にはやっぱり不満だけれど笑、そこには確かにそんな意味も込められているのかもしれないよ、ね。


intouchables03.jpg


監督ははじめて作品を見たときのフィリップの反応をこう明かす。

「完成してすぐ、9月に電話したんだ。彼は気軽に旅行ができないから、初めはエッサウィラで劇場を探したんだけど、借りられるところがなくて、彼の自宅のプール裏にある壁で屋外上映することにしたんだ。彼の友人30人くらいが集まって、犬の鳴き声やコオロギの声を背景に上映した。観ている間、フィリップのイスが動いていて、笑っているんだなと思ったよ。ところが映画が終わると、彼は目に涙を浮かべていたんだ。そして、『こんな状態になって、私は何年も前に鏡を見るのをやめた。久しぶりに自分の瞳を見たよ』って言ったんだ。フィリップに扮していたフランソワにとって、これ以上は考えられない褒め言葉だ。フィリップはパリの完成披露試写会にも訪れ奥さんと一緒にもう一度作品を見た。そのときは観客の反応に刺激されて、さらに感情を高ぶらせていたよ。上映が終わって僕が彼のほうに体を預けると、『私は両手で拍手をしているんだ!』って言うんだ」。(公式パンフレットより)



    *    *    *



映画の感動とは時間の経過とともに薄れていくのが普通で、そのうち特に印象的だったシーンやセリフだけで再構築され記憶に残るものである。けれどこの作品に関していえば、まるで余韻そのものが自分の意志を持っているかのごとく、自ら勝手に変化してゆく。
たしかに観た直後の感想は「爽快感があって、おもいっきり笑える映画」だったのに、いつのまにか「じんわりと心にしみる、あたたかくてやさしい映画だったなあ」と噛みしめている自分がいて……ほんと不思議。だからもう一度ふれたくなる。

よかったよ。



A Second WindA Second Wind
(2012/08/30)
フィリップ・ポッツォ・ディ・ボルゴ

商品詳細を見る




関連リンク

 >> 映画『最強のふたり』 公式サイト
 >> 最強のふたり : 作品情報 - 映画.com
 >> 映画「最強のふたり」 今年一番の名作と話題に – アルファルファモザイク
 >> 映画「最強のふたり」公開&原作本発売 - ABC
 >> 『最強のふたり』冒頭5分映像 - Yahoo!映画

// no tags

| 10:57 | trackback 0* | comment 0* |


<<いくら嫌いを克服セヨ。 | TOP | 一生懸命>>

comment











管理人のみ閲覧OK


trackback

trackback_url
http://labellavitaet.blog40.fc2.com/tb.php/1495-e2d121f8

| TOP |


03 ≪│2017/04│≫ 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -



Author:kotomo

【twitter】 _kotomo
【tumblr】 kotomo note*モバイル版


  *   *   *


             >> more?
track feed track feed ??????????

kotomo < > Reload

全タイトルを表示