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2012.08.26 [Sun] + Art/Design +
『ドビュッシー、音楽と芸術 ~印象派と象徴派のあいだで』展 :ドビュッシーの"海"

■ 印象派と象徴派

絵画の世界において、印象派の登場は衝撃であった。絵の具が持ち運べるようになると、もはや屋内に閉じこもる必要のなくなった画家たちはそれぞれのカンバスを手に森へと入っていき、目に映る一瞬の光のきらめきを描きとめることに夢中になった。ありのままの姿を描くーーそうして影は単なる明暗ではなく青や紫色などの色を持つようになっていった。印象派という時代の幕開けである。

印象派が世に浸透してしばらくすると、「印象派には思想がなく、目の前に見えるものを写実的に映し出しているだけである」という不満が出てきた。象徴派である。象徴主義は自然主義への反動であり、象徴派たちが求めたものは、目にみえない思想や魂を、絵にしていくことだった。

印象派と象徴派は一見相反するものであるが、その根本にあるのは伝統的手法からの脱却と自分の心のスクリーンに映った世界をそのまま表現したい、という画家の素直な願望であり、衝動であり、それらは一枚のコインの裏表に過ぎないのだろう、と思う。その方法や方向性が異なるだけであって。その実、互いに拮抗しあうことでさらなる創作活動へと没頭していったのではないかーーー。



などと、だらだら印象派と象徴派について考えを巡らせていたのは、「ドビュッシー展」の副題 "印象派と象徴派のあいだで" が気になったからである。



    *    *    *


ブリヂストン美術館 『ドビュッシー、音楽と芸術 ~印象派と象徴派のあいだで』

クロード・ドビュッシーは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスを代表する音楽家です。ドビュッシーが生きた時代には、音楽や美術、文学、舞台芸術が、互いに影響し合い、時に共同で作品をつくり上げましたが、彼は音楽家の中ではその代表的な人物と言えるでしょう。本展はドビュッシーと印象派や象徴派、さらにはジャポニスム等の関係に焦点をあて、19世紀フランス美術の新たな魅力をご紹介するものです。オルセー美術館、オランジュリー美術館、そしてブリヂストン美術館の所蔵作品を中心に、国内外から借用した作品約150点で構成されます。


第1章 ドビュッシー、音楽と芸術
第2章 ≪選ばれし乙女≫の時代
第3章 美術愛好家との交流 -ルロール、ショーソン、フォンテーヌ
第4章 アール・ヌーヴォーとジャポニスム
第5章 古代への回帰
第6章 ≪ペレアスとメリザント≫
第7章 ≪聖セバスチャンの殉教≫
第8章 美術と文学と音楽の親和性
第9章 霊感源としての自然 -ノクターン、海景、風景
第10章 新しい世界



この展覧会、なにがすごいかというと、ルノワールからドニ、ドガにモローにカンデンスキーにクレー・・・。なんて豪華なラインナップなの!まさかドビュッシー展でモネの『黄昏、ヴェネツィア』が見られるとは夢にも思わず。さながらちょっとしたオルセー美術館展といった様相。とはいえこれはドビュッシー展、通常であればおなじ部屋のなかに並ぶことのないであろう画家たちの作品がテーマにそって集められていているところがおもしろい。


たとえば第2章 ≪選ばれし乙女≫の時代


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(左)《王女サブラ》 エドワード・バーン=ジョーンズ 1865
(右)《祝福されし乙女(習作)》 ダンテ・ガブリエル・ロセッティ 1873

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(中央)《ミューズたち》 モーリス・ドニ 1893
※ すべて主催者の許可を得て撮影しています


この前とりあげたばかりのバーン=ジョーンズにロセッティ、そしてドニ。ラファエル前派とナビ派、それぞれを代表する画家たちがこんなすぐ近くに並べられているのはめずらしい気がする。


こちらは第9章 霊感源としての自然 -ノクターン、海景、風景の会場風景。たくさんの海、海、海。壁紙の青もあいまって、すごく癒される。

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《浜辺にて》 エドゥアール・マネ 1873


マネの浜辺は人物の顔がみえないところがいっそう海の蒼さと空間の静寂を引き立てていると思う。その蒼に独特の爽やかさが含まれてるとこも好き。


そしてなんといっても第4章 アール・ヌーヴォーとジャポニスム

当時、主にフランスの芸術家たちの間で大流行していたジャポニズム。もちろんドビュッシーも例外ではなく、影響を受けたのみにとどまらず、熱心なコレクターでもあった。

この章では、浮世絵が飾ってある自室の写真や、ピアノ作品【映像】第2集の3曲目「金色の魚」のインスピレーション源とされる美しい蒔絵の箱、日頃愛用していた小物など、あちこち目移りしてしまうほどたくさんの品々が展示されている。

特筆すべきは、「海」の初版の表紙に葛飾北斎の【富獄三十六景】第二十八景「神奈川沖浪裏」があしらわれていたという事実!それはドビュッシー自身による強い希望だった。ドビュッシーがはじめてその絵をみたとき、その海の荒々しさや波の臨場感、まるで生きているかのような表現に衝撃を受けたという。


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《神奈川沖浪裏》 葛飾北斎 1831

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《海―3つの交響的スケッチ》 クロード・ドビュッシー 1905


「海」は北斎の絵から霊感を与えられたのでは?という説もあるんだけど、わたしはそうは思わないな。魂込めて創り上げた作品の顔として大好きな絵を選んだ、ただそれだけではないのかと。

というのも、実は他にもうひとり「海」のイメージの源泉となったのではと名を挙げられる画家がいるのだ。ウィリアム・ターナー、その人。英国ロマン派の風景画家。曖昧な輪郭線を用いた作風で、ときに印象主義の先駆ともされる人物。


 >> ターナーのおもな作品はこちら


ターナーの作品をみると、北斎の浮世絵にはない光や色、動的な刹那が描きこまれているのが見てとれる。比べると、やはりターナー説の方が有力なのかなと。


    *    *    *


それを裏付けるような逸話もある。同時代のピアニスト、リカルド・ビニェスの1903年6月13日の日記より。

「ドビュッシーの家に行った。彼は新たにピアノのための新作(=「版画」)を聞かせてくれた……何たる偶然か、それらの曲はターナーの絵を思わせると彼に言うと、自分はまさに、それらを作曲する前、ロンドンのターナーの間で長時間過ごしたんだ、と彼は私に答えた!」


ロンドンの「ターナーの間」とはテートの一室かな?いずれにせよ「ターナーの間」というくらいだから、並べられた複数のターナーの作品たちに囲まれていたことは間違いないんだろうけど。



■ もうひとつのポスター


さて、このオルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画である「ドビュッシー展」、先に開催されたオランジュリー美術館のときとはポスターのデザインが異なる。


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↑ドビュッシー展@ブリヂストン美術館のポスターに使われているのは、ルノワールの『ピアノに向かうイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロール』。パッと目を引くポスターデザインで、これを見てドビュッシー展に興味を持ったという人も多いのでは。


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《ピアノに向かうイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロール》 ピエール=オーギュスト・ルノワール 1897


↓そしてこちらがドビュッシー展@オランジュリー美術館のポスター。


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使われているのは、アンリ=エドモン・クロスの『黄金の島』。ドビュッシーはクロスとも互いに影響を与えあっていたようで、ドビュッシーの曲との親和性故にパリでの展覧会ではクロスの絵が図録の表紙になったんだって。

ブリヂストン美術館では展示室が通路を挟んで左右にあるの、その通路のつきあたり、目を引く場所にこの作品はあります。今回いちばん印象に残ったのはこの子でした。



■ それぞれの海


1905年10月15日、「海」が初演されると、こんな酷評が新聞に掲載された。

「はじめて、ドビュッシーの絵画的な作品に耳を傾けながら、私は、自然を前にでは全然なく、自然の複製を前にしているという印象を持った。素晴らしく繊細な、創意に富み、器用に細工された複製だが、それでも複製に変わりない・・・。私には海が見えず、聞こえず、感じられない」

ドビュッシーは反論する。

「私は海を愛していて、海に払うべき情熱的な畏敬の念を以て、海に耳を傾けてきました。海が私に書き取らせるものを私が下手に書き写したとしても、私たち相互のどちらにも関係のないことです。そして、すべての耳が同じように知覚しないということでは、あなたは私たちの意見に同意なさるでしょう」







なんでかな、全然「海」のイメージとは違うんだけど。
わたしにはドビュッシーの"海"とは『黄金の島』のような海に思えてならないのだ。



そうしてわたしの焦がれる"海"もまた。



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《黄金の島》 アンリ=エドモン・クロス 1891-92



それぞれの心に映る海がある。
ぜひそれをあの青の空間で探してみてほしい。



誰が音楽創造の秘密を知るだろうか?海のざわめき。海と空とをへだてる曲線。葉陰をゆく風。鳥の鳴き声。こういったすべてが私たちのうちに多様な印象をもたらします。そして突然、こちらの思いとはおよそなんのかかわりもなしに、それらの記憶のひとつが私たちの外にひろがり、音楽としてきこえてくるのです。それは、おのれのうちにみずからの和声をひめています。

ーーー 1911 クロード・ドビュッシー




まるで「ドビュッシー」をキーワードとしてつくったこの時代の芸術家たちの花束みたいな展覧会でした。大満足



    *    *    *


ブリヂストン美術館 オルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画
「ドビュッシー 、音楽と美術 ー印象派と象徴派のあいだで」
2012年7月14日(土)~2012年10月14日(日)
公式HP


音声ガイドではドビュッシー本人による演奏音源が楽しめるのも要チェック!



関連リンク

 >> 弐代目・青い日記帳 - 「ドビュッシー展」:興味を持たれた方はまずこちらをどうぞ☆
 >> ドビュッシーを取り巻く人々~相関図~:いかにドビュッシーが多岐にわたる芸術家たちから影響をうけ、またインスピレーションを与えていったのかがよくわかる
 >> クロード・ドビュッシー
 >> ヴァーチャル絵画館 - 象徴主義の影響
 >> Debussy, Music and the Arts:オランジュリーで開催されたときの公式HP(英語)

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「ドビュッシー展」
ブリヂストン美術館で開催中の オルセー美術館、オランジュリー美術館共同企画「ドビュッシー、音楽と美術−印象派と象徴派のあいだで−」展に行って来ました。 「ドビュッシー //弐代目・青い日記帳  2012/08/28 20:32

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